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61話~70話

第61話 それが食べらるれば病人とは言わぬ

大飯食で評判の大男、鼻風邪くらいだが、仕事をさぼりたくて寝床に入ったが腹が減ってきた。
「おいおい、少し食べる気色になった。かゆを五合ばかり炊いてくれ」
五合のかゆは一升五合の飯量。八枚鍋一杯をそのまま枕元に置いた。
食べ終わったようだから細君、来てみると、わずかに茶碗半分位残している。
「たったこの位、残さんでもよさそうに」
「それが食べられる位なら病人とは言わん」

第62話 へこはかくほど重い

城下町から出てきた士が農民生活の実際を見聞して、物珍しそうである
「これ百姓、君等の話を聞いていると、へこなるものは随分重いらしいが重量は何程あるのじゃ」
「何あにお士さん、へこは小指でさげますよ」
「それであって百姓どもは、一人では持てないらしく、へこをかくと言っているではないか」

第63話 これが見えぬか目明きめ

「夜道の事だから提灯に火をつけてくれ」
「盲のあんたが提灯を持ってどうする。どうせ道が見えるのでもあるまいに」
「おれに突き当たらん為、人様に見せるのじゃ」
やがて火は消えたが、盲これを知る由もない。折悪く向こうから来た人に突き当たられ、
後ろにドスン、カンカン怒った盲、消え提灯を差し上げ
「野郎これが見えんのか、このあき盲め」

第64話 満年令はすかん

「お前には子どもが三人あるそうだが、もう何ぼになるかね」
「数えで一番上が八つ、次が五つ、すそが二つじゃ」
「今時分はなあ、満で言うものじゃ」
「あッそうかそうか、一番上が、彼岸のお中日が来てから七つ、
次がーあとの二人は生まれた日を知らんからなあ、何ぼ親でも判らん。
だから満年令はすかん。子の年も親ん年もならまだしも、わが年もわからん」

第65話 全集本は手垢がつかぬ

「立派な書斎に立派な本棚を設けて、豪華なもんですなあ」
「書物も見てくれ、この全集本が15冊、これが20冊、これが…」
「お宅などは全集本がお似合いですよ」
「そうでもないが一冊買いは面倒だからなあ」
「でもありましょうが、全集本は手垢がつかんと言うじゃありませんか」

第66話 男(お床)の上に上がってよいですか

「下女奉公に行ったら言葉使いに気をつけんと」
「言葉使いはどうすればよくなるかな」
「何でも言葉の頭にをつければいいよ」
「ねえやん、床の掛け軸がゆがんでいるから直しておくれ」
「奥さん、おとこの上に女が上がってもよいですか」
「お前はまあ、何と大それた事を言う」

第68話 茶碗蒸しもむしはきらい

「此所がレストランだよ。君初めてだな」
「うまい料理を何ぼでも持ってくるなあ」
「それ見よ、今度は茶碗むしだよ」
「茶碗むし!!これがなあ」
「食べてみろよ、うまいよ」
「茶碗むしならわしはすかん」
「茶碗むしがすかんとは、変わり者じゃな」
「わしは、わらじ虫でもせんちん虫でも、むしと名がつくものは皆すかん」

第69話 その前がわからない

「お前まだ餅を食っているのか」
「もうこれで終わりにする。大分腹が太った」
「それで幾つ目か」
「八っじゃ」
「そんなこたねえよ。わしが数えただけでも八つじゃ。その前があろう」
「わしもその前がわからんのじゃ。初めは味もわからなかったのじゃから数がわかるか」

第70話 こいたたまらん

「急でしたね、死ぬるなどとは思っていませんでしたが」
「それでも本人は、今度は仏さんのお迎えのようだと言っていました」
「ふところに懐紙らしいものがあるが書墨じゃありませんか」
アレッ!どうかなあ、書墨きなどする人じゃなかったが」
と、急いで開封して見ると
『今までは人の事じゃと思うたに、おれが死ぬとは、こいたたまらん』

 

伝 太田蜀山人

 

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